3D−LOGOによる空間の把握

平成6(1994)年:日本数学教育学会第76回総会/全国算数・数学教育研究三重大会発表


1.はじめに
 市販ソフトの3D−LOGOというLOGO言語を使用しました。普通のLOGOと違い、2次元(平面)だけでなく3次元(空間)を簡単に扱えるという特徴があります。64個のタートル(亀)があり、32,000×32,000×32,000という大きさの空間を動き回ることができます。前後左右だけでなく、上下(移動・向き・傾き)に関係する命令が増えています。64匹の亀は目を持っていて、それぞれの視点に移すことにより、図形を64方向から見ることができます。また、視点のタートルが動いているときは、連続的に変化するグラフィックスが得られます。すなわち、映像のズームアップ・ダウンや反対方向から眺めをアニメーションで表現できるのです。
 また、3D−LOGOもLOGO言語ですから、リスト処理機能や再帰的機能も持っています。

2.授業のねらい
 空間を把握し、体験することを目的としました。普段何気なく扱っている空間図形を画面上に生徒が表示し、任意の視点から図形を眺めることができるので、空間上の点をノートなどの平面にどのように表すと理解しやすいかや面と面、面と線、線と線の関係(角度等)などを自ら考え、そして、空間図形の考え方を身に付けることができるのではないかと考えました。
 また、空間図形を描くプログラミングを通して、論理的な思考力、ここでは、頭の中で思い描いた図形の全体を3D−LOGOの命令で表現できるように分解し、その命令をコンピュータに与え図形全体を画面上に表示することだが、が身に付くのではないかと考えました。
 コンピュータを利用することで、生徒は積極的に授業に参加するようになり、学習内容への興味関心の度合いも増え、理解しやすくなり、授業に参加できたという満足感も与えることができるのではないかと考えました。

3.単元計画
1)3年 数学 「代数幾何」
2)単元名 「空間図形とベクトル」
3)単元の指導計画

項目時間指導(学習)内容
空間における平行と垂直点、直線、平面の相互関係を理解させる。
空間の座標空間の点の位置の座標の表し方を理解させる。
空間のベクトル平面上のベクトルの定義などは空間においても成り立ち、内積に関しても同じであることを理解させる。
ベクトルの内積成分表示するとz座標が増えることを理解させる。
直線・平面・球面の方程式直線、平面、球面の方程式とベクトル方程式の紹介および方向ベクトル、法線ベクトルの説明

※ベクトルで表すと平面も空間も同じように表すことができて便利であることを理解させる。

4.授業の展開
1)学習指導案

時間指導内容教師と生徒の活動留 意 点PC利用
導入10分座標空間の把握教師が3D-LOGO の命令で座標空間を描いていき、生徒はそれを観察し、どのように描かれていくかを考え、座標空間を把握できるようにする。座標を描く亀と視点となる亀の説明もする。座標空間はx,yの正の方向から眺める。生徒が難しく感じないよう、命令の説明をしながら描く。視点の姿勢によって図形も傾くことも強調する。一斉送信
展開3分点の表示補助線を引かずに点(100,200,300) を表示する。x方向、y方向、z方向の補助線を引き点を表示する。亀がどこの位置にいるか分からないことを強調する。一斉送信
2分座標空間の表示あらかじめ用意しておいた座標空間の表示の仕方を示す。画面はクリアされる。一斉送信
5分点の表示直方体を補助線として点を表示する命令について説明し、実際に点を表示してみせる。補助線の色は変える。点(200,300,400)の表示。点(-300,0,-100)表示。亀の位置がはっきりすることを強調する。反応を見ながらいろいろな点を表示する。一斉送信
10分座標空間と点の表示キーボードから命令を入力させ、座標空間の表示といろいろな点の表示をさせる。操作方法の理解不十分な生徒の指導を行う。 個別操作
5分視点の変更配布プリントの右上の命令の説明を行い、実行してアニメーションを見せて視点の変更ができることを示す。命令の説明で深入りはせず簡単にする。一斉送信
10分自由学習一番興味を持った内容を学習するように指示する。・3D−LOGO(立方体を描く),・座標平面と点の表示,・視点の変更 など何をしてよいかわからない生徒がでないように個別指導する。個別学習
まとめ5分ノートへの点の書き方ノートでの座標空間の書き方と点の表示の仕方を板書する。宿題を出す。キーボードロックをし、コンピュータは動かせない。使用せず

2)実際の授業風景
 プリントとフロッピーを配布し、3D−LOGOの起動をさせます。全員起動したことを確認した後、一斉送信に切り替えて、命令の説明をしながら座標空間を描いていきます。

・亀(タートル)の表示
GRAPHIC ON または CTRL+V と押すことで亀が表示され、y軸の正の方向を向いていることを説明します。
「これが亀?」「亀ってなに?」等の反応を生徒はします。
画面上の亀が色ペンを持っていて、移動するとその色で線が引かれることや眺めている位置の説明をします。
・y軸を青で描く
「SETPC 1 で青いペンを持ち、FD 1000 で青線を引きながら1000歩前進し、 BK 2000 で青線を引きながら2000歩後退します。亀がいなくなったけど、 HOME で元の位置に戻ります。これでy軸が描けましたね。」
・x軸を赤で描く
「SETPC 2 で赤いペンに持ち変えて、x軸の正の方向を向くには右に90゜だから、 RT 90 とすればよろしい。ここからはy軸と同じだから………、これでx軸が描けましたね。」
・z軸を紫で描く
「亀を向こうを向かせて(掌を使って身振りで説明する)、ということは、下に90゜だから、DN 90 とする。そして前進1000歩。亀が小さくなったでしょう(3次元的な動きをしたことを理解させる)。そして後退2000歩。亀が消えたでしょう。これは視点より後ろに行ったからです。HOMEで描く亀は原点に戻ります。これでz軸が描けたはずだけど見えませんね(画面T)。視点がz軸上にあるから見えないんです。」 図T
・z軸が見えるように(座標空間の表示)
図Tを板書し、座標空間は図Tの視点から眺めることを説明し、視点の亀を動かします。
「視点の亀を動かすのには、電話します。 TELL 0 とします。そして、前進800歩」
ここでx、y軸が見えなくなり、画面中央に紫色の点だけが表示されているので、なぜなのかその説明をします。その後、生徒の反応を見ながら、目的とする位置まで視点となる亀を移動させて、座標空間を完成させます(画面U)。生徒は、目の前に掌をかざして、ああでもないこうでもないと手振りで亀の動きを把握しようとしています。
・点の表示
補助線を引かずに点(100,200,300) の表示をし、亀の大きさが変わるが位置ははっきりしないことを確認させます。次に、x、y、z方向に1本だけ補助線を引いて点の表示をし、さっきよりはよくなったが、まだはっきりしないことを確認させます。
ここでは、setx、sety、setz命令を使用し、説明します。
・座標空間の再表示
最初から座標空間を描くのは大変なので、LOADWORLD "ZAHYO と入力しリターンするとクリアされた新しい座標空間が現れることを説明します。
・点の表示
点の位置がはっきりする表示をさせる命令の説明をし、それを使用して、配布プリントの例の点を表示させます(画面V)。
直方体を補助線として点を表示すると位置がはっきりすることを確認させます。
・座標空間と点の表示
ここで初めて生徒が操作する時間となります。最初のうちこそ、「どう打てばいいの?」という声が聞こえてきますが、すぐに慣れ座標空間の表示と点の表示を思い思いに始めました。また、なかにはズームアップやダウンで視点の変更をしている生徒もいました。
・視点の変更
 TELL 0
 MANUAL REPEAT 36 [MR 250 LT 10 RFR] AUTO
を生徒画面に送信し、どうなるか考えさせます。REPEATは繰り返し、MRは向きを変えずに右移動、LTは左を向けという命令で、MANUAL、RFR、AUTOは図の描き方なので気にしなくてよいことを説明します。その後実行すると、この授業時間で一番盛り上がる場面となりました。「えー」「わー」「すごい」等の声があちこちから上がりました。「36で一周してくるから18に変更すると向こうからの眺めになる」と説明し、実行してみせました(画面W〜Z)。また、他の組合せでもできることを示しました(学習プリントのXを参照)。
・自由学習
この授業で一番興味を持ったことを自主的に勉強させてみることにしました。また、できるなら立方体を3D−LOGOの命令を使って描いてみてはどうかという指示も出してみました。
一番多かったのは、先ほどの個別学習の中断したところから始める生徒で、次に、アニメーションでした。アニメが一番多くなるかなと思っていたのですが、命令が難しかったようです。机間巡視をするとほとんどの生徒がアニメのやり方を聞いてきました。
立方体を描こうとしたのは2,3のグループだけでしたが成功しませんでした。正方形を描いた後、ノートのときと同じように、見た目が立方体になるように亀を15゜や20゜右や左に向きを変えて描こうとしていたのです。正方形を描いた後、移動し、90゜傾いてという操作* を4回すれば立方体になるという考えが思い浮かばないようでした。平面の思考から空間の思考へは難しいものがあるようです。
*REPEAT 4 [REPEAT 4 [FD 200 RT 90] MR 200 RR 90](これは1辺が200の立方体)
・まとめ
コンピュータを使用せずにノートに実際に座標空間を描き、点(1,3,2)を表示する方法を板書し、まとめます。この時、コンピュータに触ることに夢中になり、ホワイトボードを注目しない生徒がでてくるので、キーボードロックをし、キーを触っても反応しないようにしておきます。
6個の点の座標を示し、座標空間に描いてくることを宿題とし、次の時間にレポートにして提出することを指示して授業を終わります。

5.生徒の反応
・何をやってるのかよくわからなかった。むずかしかった。
・最悪でした。まったくわからんかった。プリント見てた方がよっぽどわかったけど、このプリントもわかりにくい。
・キーボードをうつのが難しかった。前より、空間のベクトルがわかった!?
・最初、とっつきにくくて、わけが分からなかったけどこういうやつ描いたのは、よくわかっておもしろかった。けど、角度をかえて見るのとかは難しすぎてよくわからなかった。
・コンピュータの扱い方が、いま一つわからないまま空間図形を描いたりしたが、楽しかったし、図形もわかった。でも、色を変える操作がわからなくて一色でいくつもの図形を描いたのでごちゃごちゃになってしまったのが残念でした。
・面白くてわかりやすかった。操作が難しいけど、2人組でやればわりとできる。
・あの立体的なグラフはすごいと思った。また、あのような立体的なグラフを作ってみたい。
・図で説明してもわかりにくいけど、コンピュータでいろんな視点位置が決められるのでよかったと思う。けど、それでもちょっとわかりにくい時もあった。
・方向とかでも自由に変えられるし、色も一色じゃなくて見やすかった。立体的に見れるので、わかりやすかった。
・コンピュータに興味→ベクトルに興味という段階で、おもしろく、わかりやすかった。飛行シーンがおもしろい。
・もっと使ってみたい。コンピュータでしか表せないことに使いたい。
・パソコンは将来的にも絶対必要だし、自分もやりたいので授業にもいっぱい取り入れて欲しい。

6.授業を終えて
 今まで、コンピュータで授業をしてきて、「面白かった」「よかった」「またやろう」というのが一番多い感想です。このこと事態は、積極的に授業に参加した結果であると考えれば、喜ばしいことですが、コンピュータに触れて退屈しなかったからというふうにも考えられるのではないかと思うことがあります。
 今回の授業は市販ソフトの言語を使用したので、自作ソフト(2次曲線等)で行ったときに比べて、授業中騒がしく、また、「難しかった」という感想が多く見られました。そういう次第で上記疑問点を感じてしまいました。しかし、空間図形についてよくわかったという生徒や、コンピュータに興味からベクトルへの興味がわいてきたという生徒もいました。したがって、コンピュータに触れることが好きな生徒が多いならば、もっとコンピュータ授業の仕方を工夫すれば、前述のように内容にまで興味関心を持ってくれるようになるのではないかと思います。
 授業に工夫を凝らし、CAIだけでなく普通教室でも、生徒が興味関心を持ち、理解できるような授業になるように心がけたいと思います。

P.S. 3D−LOGOプログラミング学習の感想
 平成6年2月に2年生選択代数・幾何23名を対象に,プログラミングマニュアルを教科書にして6時間授業をしました。
・SAVEをするのを忘れてデータが消えてしまったときは少しやる気をなくしてしまった。
・いろいろな図がかけて楽しかった。
・面白かったけど,本を見なければ分からない。難しい。
・自分で作ったプログラムで動かせるというのは気持ちのいいもんだなぁー。
・立体ができたとき感動してしまった。本を見てしか作ることができなかったが,今度は本を見ないで作ってみたい。
・いろんなことができ驚いた。
・とても楽しかった。ロードとセーブをまちがってデータを消してしまったのが悲しかった。もっと早くキーボードがたたけるともっと楽しかったのではと思った。
・操作を覚えるのが大変だったけど良かった。
・なかなか体験できないことをやらしてもらったのでうれしかった。
・学校の授業の時間の中では体育のバドミントンの次くらいに夢中になって真剣にできた。考えてみたら1年間の代幾の授業の中でみんなが真剣になったのはあれだけのような気がする。
・とても最後まで関心が持てて楽しくやれたと思う。真剣にやっているといつの間にか時間が無くなっていることが多かった。熱中するとやめられなかった。とても楽しく興味ある授業だった。また機会があればもう1度やってみたい。
・はじめややこしかったけど,やっているうちに夢中になって,つるさんは………(画面[)ができたときはみょうにうれしかったです。
・3D−LOGOははじめてというかあまりコンピュータを使ったことが無かったのであんなに長く使えてとてもうれしかった。3D−LOGOはいろいろできて,もっともっといろんなことをやりたかった。もう1回やりたい。


*参考文献
3D-LOGO PROGRAMMING MANUAL ユニー株式会社バイナス事業部発行
3D-LOGO REFERENCE MANUAL  ユニー株式会社バイナス事業部発行

*3D−LOGO
 ユニー株式会社バイナス事業部
 愛知県名古屋市東区東大曽根町28番30号
 電話 052−934−3511

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