因数分解養成ギプス実践報告

平成8(1996)年:数学科学習指導講座発表         
平成10(1998)年:全国算数・数学教育研究発表山口大会

1.はじめに
 基礎事項を身に付けるために暗記の宿題や授業中に基礎問題演習等を行っても、数学に対して苦手意識を持っている生徒は始める前からあきらめて手をつけない場合があります。そのような生徒も興味・関心・やる気を持って取り組み、かつ、学習内容が定着する方法がないものかと考え、そのひとつの方法としてコンピュータを活用してみることにした。
 
2.研究の方法
 コンピュータを活用すると言っても、さまざまな方法が考えられるが、ここでは、コンピュータを教える(コンピュータを教えることで教科内容を指導できる場合もありますが)のではなくコンピュータで教えることを主に考えた。
 活用方法にも、シミュレーション・ドリル・チュートリアル型等さまざまな方法が考えられるが、ここではシミュレーション型やドリル型を考えた。チュートリアル型は意欲のあるものには効果的だが、ないものには効果がないと考えたからである。
 次にソフトの入手方法だが、市販のソフト(言語を含む)、自作のソフト、フリーウェアの3種類が考えられるのではないか。
 市販のソフトではMOVELの一次変換を利用して、宿題で出しておいた猫の絵の変換の正解を確認させた後、いろいろな一次変換を体験させた。また、言語では、BASICでいろいろな曲線のグラフ表示をさせた。プログラムはこちらで用意してプリントに載せておき、生徒にそれを打ち込ませ、そのプログラムを実行させ、いろいろなパラメタを入力し、曲線の変化を確認させます。また、3次元版のロゴ言語である「3D−LOGO」で空間図形の把握を実践した。
 自作のソフトでは2次曲線・2次関数・三角関数・分数関数のグラフを描くシミュレーション的(一般には条件を入力すると勝手にグラフを表示するシミュレーションだが、これは生徒がグラフになるであろうと思われる点をマウスでなぞらなければ表示されない)なのと、画面に表示された直角三角形の三角比を求めるドリル的なのを体験させた。生徒が画面を眺めているだけという消極的な参加ではなく、操作をしないと結果が現れないという積極的な参加になるように工夫した。
 フリーウェアでは「ごたく」の利用を考えたが無理があり、これを参考に前述の三角比を作成した。「ごたく」に出会うまでは、ドリル型もチュートリアル型と同様にあまり効果がないものと決めつけていた。しかし、ちょっとした空き時間やクラブ活動で活用したところ、生徒たちが一生懸命になって取り組み、かつ、問題の答を知識として身につけていく様子から、ドリル型でも作り方によっては効果が上がるのではないかと考えた。今回その第2段として「因数分解」のソフトを作成し、活用してみることにした。
 また、コンピュータで教えるに当たり、使用するソフトの操作方法が難しいと使用法だけで1時間以上かかってしまうおそれがあるので、できるだけ操作方法の難しくないソフトを選ぶか自作したつもりである。つまりコンピュータのことは何も知らなくても、それを利用して教科の内容を限られた時間の中で学習できるようにするということである。
 
3.今までのまとめ
 コンピュータ授業は概ね好評であった。その原因を考えてみると「リアルタイム性」と「能動性」にあるのではないかと考える。普通のプリントでは人数がそろってからか、最後に一括して答え合わせをしたり、宿題では提出後2、3日しないと結果がわからない。コンピュータでは入力すると即座に結果(正解不正解等)がわかる。高級ゲーム機世代の生徒たちは、自分が行ったことに対して、即座に反応がないと辛抱できないのではないか。今後一括処理よりも個人の速度に合わせたリアルタイムな個別処理の必要性が高まってくると思う。
 しかし、普段の授業にも意欲関心を持つようになったとは言い切れない。学習ソフトの利用を考えていく上で、コンピュータ授業と普段の授業の連携をいかに取っていくかを考えていかなければならない。
 
4.今回の授業
 使用する自作ソフトは因数分解の授業の流れの中で使用することもできるが、今回は授業の流れに関係なくワンポイントで使用することにした。因数分解の授業も終わり新しい単元に入っているので、忘れた頃に復習という感覚で利用することにした。期末考査後等のちょっとした時間や補習や自習課題(CAI教室の監督が必要になるが)で利用できる
のではないかと考える。
因数分解養成ギプス指導案
 時間 指導内容 教師と生徒の活動 留意点 PC利用




ソフトの操作方法  教師画面を一斉送信し、操作方法の説明をする。
 記録用紙に実習の記録をするように指示する。
できるだけ簡
潔に手短に説
明する。
教師利用




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因数分解の実習

 生徒は2人1組になるので助け合いながら、また、操作は交互に
するように指示する。
 教師は机間巡視をし、示唆・ヒントを個別に与え、質問に答える。
個別学習とな
るので生徒の
進度に合わせ
た助言をする
生徒利用






ソフトの終了のさせ方
と後始末
 ソフトの終了のさせ方と電源の切り方を指導する。配布物の回収を行う。


あらかじめ生徒機は起動させておき、メニュー画面を表示させておく。少しでも実習時間が長くなるようにする。
また、生徒には1ステージクリア毎にその結果である問題レベルと点数を記入する用紙を配布し、授業終了時に回収し、その結果を分析することにしている。
 
 生徒の声
・おもんなかった。こんなことしても意味がないと思う。
・めっちゃおもしろかった。レベルが上がるにつれて問題が難しくなったけど自分が解ける問題ばかりで良かった。100点とれたときはうれしかった。
・はじめのほうがたのしかった。だんだん難しくなってきたわからなかった。でも、ふつうにやるよりはたのしかった。
・なんかすごくえらかった。やっぱり計算すんのがすごくしんどい。あー、すごくつかれた。でもそれなりにおもしろかった。
・使い方がわからなくてちょっと困った。計算が難しかった。もう1回やりたいです。
・時間が決まっているからすごく焦った。+と−を逆にしてばっかりだった。もう一人が休みだったのでめっちゃつかれた。
・楽しかった。相性診断も2回くらいできてうれしかった。時間制限があって、あせったりしていたけど、レベル4までいけた。だんだんなれたりしてきて、楽くなったときに時間が来て終わらなくてはいけなくなって残念だった。
・あまりわからなかった。何回もやっていたらだんだんわかってきた。
・結構楽しかったけど、だんだんあきてきて、なーんも考えられなくなった。相性診断したかったのにー。
・久しぶりにこんなに頭の運動をして、気持ちが良かった。レベル4までいけたが、「普通の高校生」と言われて、ちょっとくやしかった。
・おもしろかった。けど計算づかれた。ときどき、違う問題があってわからないところもあったけど簡単なところもあっておもしろかった。
 
5.今後の展開
 DOS機24台が,更新でWindows95機40台(いろいろ検討したが、20台強を一人でみるのでも相当の困難があるのに、はたして一人で40台をみることができるかも疑問である等の教育効果や場所等を考慮して20台ずつ二部屋とした)となった。 サーバ1台(PC-9821RS)と教師機1台(PC-9821RA20)&生徒機20台(PC-9821RS18)×2教室、OSはWindowsNTとWindows95の両方をインスツールし、ワープロや表計算はNTで、マルティメディア系は95でと使い分けています。確かに便利になり、「コンピュータ教える(ワープロや表計算)」のはやりやすくなりました。しかし、「コンピュータ教える」ことは逆に困難(デスクトップやマルチタスクがじゃま)になったような気がします。
 本来勉強とは孤独な作業であると思っていたのだが、本校の生徒だけかもしれないが、友人数人と学校に残って勉強する生徒が増えてきているのである(家に帰ってから一人で勉強しているのかもしれないが)。したがって、ワープロや表計算の実習は別にして、CAIソフトは二人一組で利用した方が教育効果が上がる場合もあると思われる。また、ハード面の整備だけでなく、人員の配置も問題になってくるのではないかと考える。
 更新時に台数だけでなくハードとOSも新しくなり、ますますオーディオヴィジュアル関係の機能が強化されるが、数学教育のソフトを考えていく上で、空間図形以外あまり必要のないことではないかと思われる。つまり、教育用ソフトが新ハード&OSについていけていないと感じるのである。新しいものを追い求めることも必要かもしれないが、現在設置されている機種の機能でやり残したことはないのであろうか、無理なのであろうか。本当に新しい機種のほうがより教育的効果が上がるのだろうか。疑問である。
 ソフトに関してもすばらしい機能を揃えて色々なことができるようになってきましたが、逆にその「色々できる」がじゃまをしていないでしょうか。多彩な機能があるが故に操作が難しくなり、使いこなすまでに時間がかかってしまう(教師も生徒も)。現場においては、限られた時間しかないので、結局使わず(使わせず)じまいになっていないでしょうか。授業ではなく、放課後等に興味関心のある生徒に対して使用させるのであれば効果はあると思います。
 できればソフトも、「これしかできない」という単機能のを幾種類も作り、メニュー画面で使用するモジュールを選択できるのがよいのではないでしょうか。単機能であるが故に操作が簡単になり、操作の学習に時間を取られなくてすむようになる。そうすることによって、ある単元の数時間の授業時間のうち1時間をそのソフトを利用して予習や復習や知識の定着の時間に組み込みやすくなるのではないかと思います。例えば、手前ミソで申し訳ないのですが、私が自作したソフト(関数グラフ作図支援:2次曲線、2次関数、三角関数、分数関数、指数・対数関数がある。養成ギプス:三角比、因数分解がある。どのソフトもキーボードをさわったことのない生徒でもすぐに使えるようになるのが特徴)みたいなのを、もっと見栄えを良くして開発していただけないものかと考えています。
 ワンポイントでコンピュータを使用(短時間のコンピュータ利用)したいが、そのためだけにCAI教室に生徒を入れるのも、移動だけでなく利用後の指導も大変である。目の前のコンピュータに気が散るために本来の授業に集中できなくなるのである。そこで、CAI教室の整備だけでなく、各普通教室に1台ずつのコンピュータの整備も今後要求していくべきではないかと思う。そして、各教室間をLANで結び、職員室にサーバ機を設置し利用できたらと思う。最終的には学校がホスト局になって、各家庭とパソコン通信できる環境を整えるべきである。家庭学習やいじめ問題の解決ひいては父母(地域社会)の学校教育への関わり方等に有効利用できると考える。すこし、話がそれたが、各普通教室に1台の設置が無理でも移動テレビとスキャンコンバータとノートパソコンで代用はできると思う。この場合、スキャンコンバータは3万円前後で購入できるので、すぐにでも実践できるのではないかと考える。普通教室に居ながらにして、ワンポイントでコンピュータを利用する、すなわち、道具として利用する、まさに電子黒板とでも言うべき利用もできるのではないかと考える。

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