三角関数グラフ作図支援ソフトウェア

平成4(1992)年:第39回近畿算数・数学教育研究京都大会発表


1.はじめに
  本校は1学年が7クラスの普通科のみの高校である。学習が苦手で、授業にもなかなか集中できない生徒が多い。また、進路別やコース別のクラス編成はおこなわず、自然学級としているので、同じクラスであっても学力的に大きな幅がある。
  卒業後の希望進路であるが、数年前までは就職希望者が大半を占めていたが、近年、進学希望者が過半数を超えるようになった。
  本校では、平成3年3月にコンピュータが導入された。今回、実践をおこなったのは、2年1組(45名),2組(46名)の2クラスである。この学年は1年次に数学Tの授業を1時間利用して、コンピュータの導入教育をおこなっている。このため、今回は機器操作については新たな指導はおこなわずに授業にのぞんだ。

2.コンピュータ利用について
 (1) 開発に際して
  コンピュータは特別な道具でなく、あくまでも、鉛筆・定規・コンパス等と同じ道具として扱いたい。また、ドリル型・チュートリアル型のようにすべてをコンピュータが行う(これを考えるのは大変である)のではなく、指導や示唆・ヒントはその場にいる教師が個々の生徒の反応を見て行えばよいのではないか。
 (2) 開発の目的
  座学だと式の変形や数値の計算が苦手な生徒は授業に参加しにくいという状況があり、また、市販のソフトだと三角関数のグラフを表示させるものがあるが、そのほとんどが条件の入力後、眺めているだけになる。
  そこで、「生徒が参加しにくいまたは眺めるという消極的な参加をする」という状況から「生徒がもっと積極的な参加をする」という状況になることを目的とした。
  したがって、生徒は条件からどのようなグラフになるかをだけに考えを集中することができるようになり、また、マウスを操作しないとグラフは完成しないので生徒は積極的な参加をするようになる。
  そして、このソフトを利用することにより、自分で描けたという気持ちにさせ、学習に対する興味・関心・理解を呼び起こしたい。
 (3) プログラムの概要
  ・条件の入力を行う。(テンキーのみを使用)
  ・マウスを上下左右に動かしてグラフを完成させる。
   グラフ作成には、手動モード(x座標、y座標ともに条件を一致させて点を表示する)と自動モード(x座標を指定すると対応するy座標上に点を表示する)がある。
  ・グラフを表示したまま次の操作に移るか、グラフを消去してから次の操作に移るか、終了するかの選択を行う。
  ※詳細は操作マニュアルを参照のこと。
  ※グラフ作成時に座標平面上を補助線が移動していくが、補助線が下絵の上を通過しても下絵が消えないように工夫してある。
 (4) 欠点
  ・分数や累乗根をそのままの形で利用できない。小数にする必要がある。
   例えば、分数式の計算結果を分数にするには、専用のプログラムの開発が必要になる。
  ・文字の種類や表示位置に限りがあり、教科書どおりの表現ができない。
   例えば、「x」は「x」、「x」は「x^2」のようにしか表示できないので、表示させたければ、専用のプログラムの開発が必要になる。
  ・本プログラムは、ドット単位でグラフ上の点かどうかの判断をしており、有効桁数の関係で計算誤差が出てしまいグラフのつながらない部分がある。この欠点もプログラムの仕方しだいで何とかなると思うが、学習の妨げになっていない。というのは、「画面の表示能力が640×400ドットしかなく、四捨五入や切捨て等の計算誤差が積み重なり、どうしてもつながらない。コンピュータにも限界があるのだ。」という説明をすると納得するようである。
3.実践授業
 (1) 本時までの授業

三角比(復習)1時間
一般角と弧度法3時間
定義と値2時間
相互関係と性質3時間
グラフ5時間(本時はその2時間目)
 (2) 本時のねらい
  ・単位円と三角関数の関係を確認しながら再度、基本グラフを描かせる。
  ・いろいろな三角関数のグラフを描かせ、比較させる。
  ・入力する値によって、値域や周期がどのように変化しているのか気付かせる。
 (3) 本時の展開
  @ 導入
   ディスクを配布し、プログラムの起動をさせる。
  A 使用方法の説明
   教師用機器で操作を行い、生徒用機器に一斉送信で画面を提示する。
   この時、単位円のx,y座標がそれぞれ、余弦、正弦の値であることを強調し、補助線の役割をしっかり理解させる。
  B 作業
   入力する条件は指定せず、すべて生徒の自主性にまかせた。その間、机間巡視やモニター画面にて指導・示唆を行う。
  C 後始末
   ディスクの返却、椅子や机上を整理・整頓し、退場させる。
  ※次の時間、実際に用紙の上にいろいろなグラフを描かせながら、まとめを行った。

4.授業を終えて
  生徒の学習に対する興味・関心を呼び起こすことと、授業への積極的な参加をさせることには成功したと思うが、理解させる所まではいけなかったと思う。つまり、グラフのだいたいの形はわかっているが、実際にグラフ用紙上に数値をとってのグラフが描けないのである。
  また、画面上のグラフを描き写させる作業を行ったほうが、グラフと条件の関連の理解と実際にグラフ用紙に描かせる時のためには良かったのではないかと思われる。

5.生徒の声
 ・じゃまくさい。でもきれー。けっこう夢中になれる。でも遊んでる感じ、勉強じゃない。
 ・グラフをいろいろと自分で楽しめるからけっこうおもしろかった。
 ・自分で使えるようになったのでおもしろかった。パソコンを使ったほうがわかりやすい。
 ・グラフをかくことしか頭にない。きれいにかいて点と点の間があいているとむかついてくる。
 ・自分の好きなグラフがかけて便利でいい。自分で動かせるから、自分がかいているみたいでおもしろい。
 ・普通の授業よりCAI教室のほうがおもしろいし、楽である。


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