学研:New教育とマイコン Jul. 1993
平成5(1993)年:日本数学教育学会第75回総会/全国算数・数学教育研究滋賀大会発表
1年 | 「数学T」 | 必修6単位 | 3年 | 「代数幾何」 | 必修4単位 |
2年 | 「基礎解析」 | 必修4単位 | 「微分積分」 | 選択3単位 | |
「数学T」 | 選択3単位 | 「確率統計」 | 選択2単位 |
平成5年度は、教科は週30時間とし、土曜日には授業をせず、行事や講演、教科・教員個人が提供できる講座を設けています。
平成3年3月にNECのコンピュータを導入しています。普通教室を改造し、教師用にDS1台を、生徒用にDX24台を設置しています。
2.コンピュータ利用について
謚J発に際して
授業の中でコンピュータを特別なものではなく、定規やコンパスを使用しているのと同じ感覚で普通の道具として扱いたいという思いがあります。 ドリル型・チュートリアル型のようにすべてをコンピュータが行う(それなりに利点はあると思いますが)のではなく、その場にいる教師が個々の生徒の反応を見て指導や示唆・ヒントを行えばよいのではないかとも思っています。
コンピューターを教えるのではなくコンピューターで教えるのだということを意識しました。
迥J発の目的
座学だと式の変形や計算が苦手な生徒は授業に参加しにくいという状況があります。また、関数のグラフを表示させるソフトもありますが、そのほとんどは条件を入力するとグラフを自動的に表示するようになっていますので、生徒は条件の入力後、画面を眺めるだけになってしまいます。
そこで、「生徒が参加しにくい、または、眺めるだけの消極的な参加」という状況から「生徒が作業をする積極的な参加」という状況になることを目的にしました。
生徒は式の変形や計算をしなくてもよいので、条件からどのようなグラフになるかだけに考えを集中することができるようになります。
自分がコンピュータを利用して描いたんだという気持ちにさせ、学習に対する興味・関心・理解を呼び起こしたいと思います。
操作について
条件とグラフの関係以外のことで生徒が悩まないように操作方法を考えています。
stopキーを使用する以外はマウスのみで操作できるようにしています。条件入力もマウスで行い、平方根もそのまま入力できます。グラフも座標平面上の補助線(条件の視覚化)の先の点をマウスで上下左右に移動させるだけで完成します。
3.単元計画
1)3年 「代数・幾何」
2)「2次曲線」
3)単元の指導計画
項目 | 時間(場所) | 指導(学習)内容 |
放物線 | 本時(CAI) | 準線と焦点からの距離が等しい(距離の比が1:1)点の軌跡が放物線になることに気づかせます。 |
1(教室) | 条件から公式を導き、練習を通して理解の定着をはかります。 | |
だ円 | 1(CAI) | 2焦点からの距離の和が一定である点の軌跡がだ円になることに気づかせます。 |
2(教室) | 条件から公式を導き、練習を通して理解の定着をはかります。 | |
双曲線 | 1(CAI) | 2焦点からの距離の差が一定である点の軌跡が双曲線になることに気づかせます。 |
2(教室) | 条件から公式を導き、練習を通して理解の定着をはかります。 | |
いろいろな二次曲線 | 1(教室) | いろいろな2次曲線の問題演習を行い、理解の定着をはかります。 |
1(CAI) | 準線と焦点からの距離の比が1:1以外の曲線について学習します。 |
4.本時の展開
1)概要
時間 | 指導内容 | 教師と生徒の活動 | PC利用 | |
導入 | 10分 | 操作方法の説明と条件に適したグラフが放物線だと気づかせます。 | 教師卓の画面を生徒に中継し入力の仕方等操作方法の説明をします。生徒は操作方法の理解と表示されたグラフが何であるか考えます。 | 教師利用 |
展開 | 40分 | 準線と焦点からの距離が等しい点の軌跡がすべて放物線になることに気づかせます。 | 教師は机間巡視をし、示唆・ヒントを個別に与えます。生徒は2人1組になり、配布された2枚のプリントにしたがって4個の問題を画面に表示させ、プリントの座標平面上にかき写します。 | 生徒利用 |
2)実践授業
2枚のプリント(NO1とNO1-2)を配布し、例題をもとに条件入力の方法を教師卓で操作し、その画面を一斉送信で生徒画面に表示することで説明します。この学年は、1年の時にCAI導入オリエンテーションを受けていますし、何度かCAI授業を受けた経験があります。
次に、グラフ作成画面に移ります。ここで、画面に表示される情報の説明をします。画面右側に入力した条件が表示されていること、補助線の先が動点Pを表しており、画面左上にその座標が表示されていること、補助線は通常「赤」で表示されていて、先が条件に適した位置に来ると黄色に変化し、自動的に黄色の点が残されること、その操作を繰り返すことでグラフが完成すること、画面中央上にPF:PHの比率が動的に表示されていることを説明します。
例題のグラフ作成終了後、このグラフは何であったか生徒に質問します。
その後、生徒に操作するように次のような指示します。
・例題から問3までをやり、グラフが完成するごとにプリントにかき写しなさい。
・4題ともやり終えたら、自分の好きな条件を入力してみなさい。
・すべて放物線になっていることを確認しなさい。
・プリント1枚目の左下の部分は次の時間にやります。(放物線の定義と放物線の方程式)
生徒の性格も見えてくる!
いろいろなグループがいて、画面上にある程度点がとれてグラフの形が推測できるれば、すぐにプリントにかき写すグループもあれば、きっちりと画面上にグラフを表示させてからかき写すグループもありました。生徒の性格が見えてきて大変面白かったです。
その間、生徒に指示はしませんでしたが、示唆やヒントを個々のグループの様子を見て与えながら机間巡視し、ほとんど生徒の自由に任せました。
授業が終了する時点で、速いグループはプリントで指示された問題の他に数個の問題を自分たちで条件を考えてやり終えていました。遅いグループでも指示された問題はすべてやり終えていました。また、授業終了後の休み時間になっても少しの間残って作業するグループもありました。
なかには意欲のない生徒も少数だがいて、指示された問題だけは早々と済ませ、机間巡視で近寄ると作業している振りをするという場面もありました。
5.生徒の反応
単元終了後、生徒122名にアンケートを実施した結果は次の通りである。
選択肢 | @ | A | B | C | D | E | 無答 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
問1 | 52.5% | 39.3% | 5.7% | 0.8% | 0.8% | 0.8% | 0.0% |
問2 | 26.2% | 32.8% | 27.0% | 9.0% | 1.6% | 3.3% | 0.0% |
問3 | 41.8% | 36.9% | 15.6% | 3.3% | 2.5% | 0.0% | 0.0% |
問4 | 60.7% | 27.0% | 9.0% | 1.6% | 1.6% | 0.0% | 0.0% |
問5 | 52.5% | 28.7% | 13.1% | 3.3% | 0.8% | 0.8% | 0.8% |
問6 | 73.8% | 20.5% | 3.3% | 0.0% | 1.6% | 0.0% | 0.8% |
設問ごとになぜそう回答したのかという理由は、次の通りである。
問1(コンピュータ使用について)
・目が悪くなりそうだった。 ・楽だから。
・マウスを使うのがじゃまくさかった。
・グラフを描くのに必死で全然頭に入らなかった。
・点をとる作業はおもしろかったけど、どことどこが 1:1,2:1 などかなど、具体的なことがわからなかった。
・勉強の意味がわからない。もっと丁寧に教えて欲しい。
・マウスを使ってグラフを描いたのでわかりやすかった。
・機械をいじるのが大好きなので満足している。就職にもいずれ関わってくるから。
・おもしろかった。 ・楽しかった。
・自分のペースでできるから。 ・ゲーム感覚なのでよかった。
・グラフの点の位置や、数値がとてもよくわかった。
・コンピュータの使い方がよくわかったから。
・自分の目と手でグラフを作れたから。
・自分ではできないこともできたのはよかった。
・授業とは違った学習ができた。
問2(コンピュータと黒板の比較)
・普通の授業の方がよかった。 ・楽しいだけ。
・そんなに変わらない。 ・黒板の方がよい。
・CAIでは、図を描くだけだったので、少しわからないところもあった。
・マウスで遊んでるようだった。
・コンピュータでは指示どおりにしているだけで説明も聞けないし理解しにくい。
・どういう形になるかわかりやすかった。
・黒板だとノートに写しながら聞く上で大変だからよかった。
・グラフがわかりやすい。 ・目の前で詳しく見れる。
・自分だけに教えてくれるみたいで、見にくくないし、けっこうわかりやすい。
・自分の目の前で自分の手で進めていくので。
・黒板は計算が多くコンピュータは作業だけなので、そのギャップでよくわからない。
・めずらしくて、真剣に取り組むだけあって、よくわかった。
・黒板に描いたのを写すのではなく自分でグラフが書けたから。
・自分でグラフを描くのは難しいのでコンピュータを使った方がわかりやすい。
問3(集中できたか)
・マウスでグラフを描くのがめんどくさかった。
・遊んだり、話ばかりした。 ・動かすのが難しい。
・コンピュータに気がいって話はあまり聞いていなかった。
・2人に1台に無理がある。 ・楽しいから。
・ずっと点ばっかりとるので、じれったくなった。
・CAIだと緊張感がなくなるし、友達としゃべれるし、まわりがうるさいけど、まあまあです。
・興味をひかれるから。
・自分でやらないと進めないから。 ・おもしろかったから。
・大切な所がすぐにわかるからいつも集中できた。
・2人でするので交代で教えあいながらできた。
・少し友達とわからなかったとき話すくらいで、描くこと、することに集中しすぎて目が痛いくらいだった。
・まわりの人も集中していて静かだったから。
・自分でコンピュータを操作しなければならなかったから。
・しゃべりながらでも必死になっていた。
・集中しないと点が見つからないから。
・作業はおもしろかった(特にマウスを使うのは初めてだったから)。
・集中はできたけど意味はもひとつわからへんた。
問4(学習意欲)
・ややこしいから。 ・めんどくさかったから。
・「なぜ、こうなるのか」という意識が持てなかったから、あまりなかったと思う。
・普通の授業の方がけじめはつく。
・CAI教室を使える日が待ち遠しかった。
・教室の授業とは違うから。 ・楽しくできた。
・いつも黒板で勉強していることを、違うやり方で勉強できるから。
・コンピュータは学校でしか使わないから。
・普段使わない物が使えたから。 ・おもしろかったから。
・自分でいろんなことが探せるから。 ・よくわかったから。
問5(学習内容に興味)
・説明が長かったから。 ・よくわからない部分があった。
・座標とかじたい何なのかよくわからないので、何がどうなっているかなんて考えもしなかった。
・おもしろい授業だったと思う。 ・線を描くのが楽しかった。
・よくわかるから。 ・ノートには書けない内容があるから。
・グラフを探すのがおもしろかった。
・難しい学習でもコンピュータだとわかりやすく感じる。
・コンピュータだと正確だから。
・1つ1つ確実にできあがるから。
問6(他でも使いたいか)
・目がぼやけるから。 ・難しいから。 ・眠くならないから。
・簡単に細かなことまでわかる。 ・普通授業よりおもしろい。
・いろいろな授業で1週間に何度かCAI教室に行きたい。
・コンピュータならまた違った感じで勉強できてわかるようになるかもしれないから。
・楽しく理解できるから。
・遊んでるみたいだけど、身についているような感じがする。
・わかりやすいし、集中できて頭に入りやすいから。
・集中できて充実していると思うのでたまに取り入れて欲しい。
・楽しいし、これからはコンピュータをある程度使えないとやっていけない。
問7(感想)
・おもしろかったけど、勉強として頑張れたかはわからない。テストのことを考えると、家でコンピュータ授業のおさらいで、まとめ直さなければならない。それが当たり前と言われそうだが、受験勉強に代幾のなく多忙な私としては、学校だけで理解できる授業がよい。コンピュータと黒板を頭の中でどうつなげるか難しい所である。
・他の授業もCAIを使うけど、代幾は一番最悪な使い方だった。イラつくし、目は疲れるし、コンピュータが(点が小さすぎるため)なかなか点をとってくれないし、マウスは使いにくいし。
・今回のコンピュータ授業は私にとってタメにならなかった。けど楽しかった。
・先生の話を聞く体勢ができていなかった。
・マウスがなかなか言うことを聞いてくれなくていらだった。
・点をとるときちまちましてて腹立ったけど、楽しかった。また、こういう授業をして欲しい。
・最初コンピュータを使って図を描いてから、計算するという方法がよかった。
・毎回のようにして欲しい。
・いろいろな2次曲線を描いてみたいと思った。
・初めはよくわからなかったけど、後の方でけっこう楽しめたのでよかったと思う。
・もっといろいろなことをさせて欲しい。
・楽しかったけど、集中しすぎて目が痛かった。
・授業というより遊び感覚でしていたのでいまいちよく内容が理解できなかった。
・いつもグラフを描くのに手間取るんだけど、コンピュータを使ったら、わかりやすく簡単にできた。
6.授業を終えて
当初の目的、生徒の学習に対する興味・関心を呼び起こすことと授業への積極的な参加をさせることには成功したのではないかと感じています。そして、深い理解ではないいけれども直感的な理解もさせることができたのではないかと考えています。
しかし、直感的な理解であるため、条件とグラフのだいたいの形はわかるのだが、条件と式の関係および式とグラフの形の関係がなかなか結びつかないということになりました。
授業間の流れも大切にと考えていましたが、今回はうまく行かなかったと反省しています。50分という授業時間は、CAI授業ではどちらかというと長く、教室では短いようでした。今後の検討課題にしたいと思います。
また、生徒の感想を見ていると、授業内容に対する興味・関心というよりもコンピュータに対する興味・関心が非常に強いのではないかと感じました。現代が情報化社会であることを教師以上に感じており、コンピュータぐらい扱えないとという気持ちが生徒にあるみたいです。このことは、コンピュータが目新しいものでなくなったとき、コンピュータを使用するということだけで生徒を引き付けることができなくなるということだと思います。教材研究と教案作りの重要性が今まで以上に高まるのではないかと思います。
今回は、生徒に操作させたわけだが、教科指導をコンピュータで行うという立場からいえば、必ずしもそれは必要ないのではないかと考えます。教師がコンピュータを操作し、その画面を生徒がみながら学習するという形態の方がより効果的である場合も考えられるのではないでしょうか。コンピュータを任意の図形が動く黒板として利用する方法(電子黒板)であり、また、順列や組合せなどの答えを黒板に例示するのは大変だが、その例示をコンピュータにさせる方法(解の提示・確認機械)等です。この利用方法だと、CAI教室というものは必要なくなり、各教室にコンピュータが設置されていれば済むことになります。コンピュータがあるのが当たり前で普通の光景となって初めて、コンピュータリテラシーのことを考えずに教科指導にのみ考えをめぐらせてコンピュータを活かすことができるのではないでしょうか。また、教室に設置されていれば、普段からコンピュータに接することになり、リテラシーも自然と身に付くのではないでしょうか。教室間のコンピュータがLANで結ばれていればよりよいと考えます。職員室にサーバがあり、音楽室や物理室・図書館にも設置されていて、生徒は必要に応じて情報を教室から得られるようにすればおもしろいと思います。
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