奴踊り

 長野県北安曇郡小谷村の中谷では、8月27日に大宮諏訪神社の例大祭が行なわれる。この例大祭において、奴踊りが行なわれた。地元では「奴を振る」ともいう。中谷17部落の内、長崎、千沢、高地、田中、葛草連の5部落から出役するというが、現在は葛草連の集落は移住してない。奴踊りでは歌が歌われるが、本村と言われる長崎の寄り合いで作詞されるという。歌詞は毎年三つ作られ、第一は神得を称え、第二は豊年や郷土に関する歌、第三には時局・世相の歌が作られ歌われる。

 歌は祭典当日まで極秘とされ、神社関係者にも知らされず、神前で初めて聞かされることとなる。

 昭和61年と昭和62年にこの祭りを訪れたが、当時はすでに27日ではなく、その近くの日曜日に行なわれていた。確認していないが奴踊りは、昭和62年が最後だったというようなことも聞いた。ここに紹介するものは、その年の8月30日に録音したもので、第一の歌詞である。この前年の歌詞では、その年に起きた日航機墜落事故のことが触れられていた。

 明治期以降の歌詞が記録されているという。ちなみに昭和20年、戦争が終結してまもなく行なわれた例大祭での歌詞を『小谷民俗誌』より紹介する。

 
長しけも
氏神様の御利益で
万の作も豊年よ
風おだやかに振り込んだ


四年越なる大戦も
原文受けて停戦よ
玉の御声にかしこみて
中谷郷社の大祭


ばくだんで
戦災死傷九百万
仇とにらむぞ九千万
必ず打つぞ大和魂

 この歌詞から読み取ると、「停戦よ」とか「仇とにらむぞ・・・必ず打つぞ・・・」という具合に、戦争はまだ終わっていない≠ニいうような歌詞になっていて、当時の人々がどうとらえていたのか、微妙な世界がそこにはある。
昭和61年8月31日撮影