片桐町長持

 大正4年の小野の御柱(上伊那郡辰野町)を訪れた湯沢金作は、大正9年の御射山神社御柱(旧片桐七村の氏子による御柱)に小野で見た長持行列を出したいと有志を募った。小野より師匠を迎え一ヶ月あまりの練習を重ねたという。そして大正9年の御柱祭に初めて奉納した片桐町長持は、その後の御柱祭へと継承され、飯田市の大宮諏訪神社で行なわれる「飯田のお練り」においても協賛出演を重ねてきている。

 片桐町とは、現在の下伊那郡松川町上片桐における町谷、中荒町、上町の3部落をいい、かつての三州街道片桐宿を中心とした地域である。この3部落の有志によって現在長持保存会が結成されており、3部落の産土である片桐神社において、毎年春季例祭に奉納演舞されている。近年の祭典は4月第1土曜日である。唄を担当されている米山勇之助氏は、奉納の歌詞をその年の時勢に合わせて作詞している。ここに平成16年3月の御柱祭用に作られた「長持歌」という歌集があるが、この中の唄がそのまま唄われるという例は少ない。その場に応じた唄が披露され、長持の踊りが披露されるというもので、芸能としては古式を重視しながらも、その時々に応じた変化を取り入れてきている点は特徴的である。

 次世代への継承をと、御柱祭の年には子どもたちの演舞を取り入れている。お練り祭りのような華やかな舞台では、そうした子どもたちの演舞が注目されている。

 
 今回の録音データは、平成18年4月2日に行なわれた片桐神社春季例祭のもので、長持唄は、長持の演舞で唄われたもので、「ギシ、ギシ」という長持の揺れる音が聞こえる。また、甚句は、芸能が奉納されたのちの直らいの席において唄われたものである。