平成6年9月9日(金)公開授業
平成7(1995)年:日本数学教育学会第77回総会/全国算数・数学教育研究東京大会発表
2.使用ソフトについて
ゲーム性を持ったドリル形式のソフトを作成し、使用しました。
基礎事項を身に付けるために暗記の宿題や授業中に基礎問題演習等を行っても、数学に対して苦手意識を持っている生徒は始める前からあきらめて手をつけない場合があります。そこで、何とかならないかと思っていたところフリーソフトの「5TAKU」に出会いました。今まで、ドリル型やチュートリアル型のソフトは作成に手間暇がかかり余り効果はないであろう、またやる気のあるものには効果があるだろうけれどもやる気のないものには今一つであるだろうと否定的に見ていたのですが、そのような事もないのではないかと思うようになりました。
作り方によってはドリル形式のソフトも効果が期待できるのではないかということで、図形を扱った「三角比養成ギプス」(三角形を与えて三角比を求める)の完成となりました。
「三角比養成ギプス」は、ドリル型でありながら問題作成の手間がかからないようになっていて、10個ほどのデータを用意するだけで数百種類の問題が、また、答えも、自動的に作成されるようになっています。生徒を引き付けるということで解答までに時間制限を設け、データを用意すれば時々雑学の問題が表示されるようになっていて、得点を表示しゲーム性を持たせています。また、点数に応じたメッセージを簡単に変更できるようになっているので、使用する学校に応じた応答メッセージも作成することができ、生徒を飽きさせない工夫もしています。おまけとして、点数に応じた確率で、占いの相性診断ができるようにもなっています。操作はマウスのみで行い、キーボードは使用しない(おまけを除く)ので、初心者でもすぐに利用できるようになります。答えを自動生成するため、約分や有理化の途中式を入れられると誤答になってしまうので、どうするかが今後の課題の一つです。
3.単元計画
1)1年 数学 「数学T」(新課程)
2)「三角比」
3)単元の指導計画
項目 | 時間 | 指導(学習)内容 |
---|---|---|
正弦・余弦・正接 | 4 | 正弦・余弦・正接を定義し、簡単な利用を考える。 |
1 | CAIで問題演習し、理解の定着をはかる。 | |
三角比の相互関係 | 2 | 正弦・余弦・正接の相互間の関係を調べ、公式にまとめ、利用法になれさせる。 |
鈍角の三角比 | 4 | 鋭角の三角比をもとに、直角や鈍角の三角比の定義をし、十分理解させる。 |
問題演習 | 1 | 理解の定着をはかるための演習。 |
時間 | 指導内容 | 教師と生徒の活動 | 留意点 | PC利用 | |
---|---|---|---|---|---|
導入 | 5分 | ソフトの起動のさせ方と操作方法 | 生徒はディスク等を受けとりソフトを起動させる。生徒全員の起動を確認後、教師画面を一斉送信し、操作方法の説明をする。この時、三角比の定義の再確認をする。 | 定義が一目で確認できるようにボードに大書きする。 | 教師利用 |
展開 | 42分 | 三角比の値を求める | 生徒は2人1組になるので助け合いながら、また、操作は交互にするように指示する。教師は机間巡視をし、示唆・ヒントを個別に与え、また、質問に答える。 | 個別学習となるので生徒の進度に合わせた助言をする。 | 生徒利用 |
3分 | ソフトの終了と後始末 | ソフトの終了のさせ方と電源の切り方を指導する。配布物の回収を行う。 |
邇タ際の授業風景
新教育課程の最初の生徒だったのでほとんどが中学校時代にコンピュータを使用してきており、また、本校入学後も導入オリエンテーション1時間と2次関数のグラフで1時間使用しており、コンピュータ授業に何の抵抗もなく、むしろ、心待ちにしているような雰囲気でした。
操作するのが2人一組である。ゲーム性を持たせるために、1問10点で10問100点満点とし、持ち時間は1問40秒間(持ち点が50点を越えると20秒間)になっていて、得点表示がされる。5問につき1問雑学の問題(七福神のうち日本の神様なのは次のうち誰でしょう?等)がでるようになっている(60%の割合としているので雑学の問題がでない場合もある)。点数に応じてバイオリズムによる相性診断ができるようになっている。ということで、生徒が積極的に参加し、大変活気のある授業となりました。無駄話をする生徒はいなかったのですが、正解でも不正解でも、また、最終得点が表示されると歓声が上がり騒がしくなってしまう場面もありました。公開授業で先生方が見ておられることも忘れるほど熱中していたみたいです。隣が普通教室のため、少し迷惑をかけてしまいました。マルチメディアが叫ばれている現在、防音設備も必要かなと思うこの頃です。
意欲と関心
生徒が興味関心を持ってくれるように工夫をしたつもりでしたが、そこまで私自信予期していなかっただけに大変うれしく思いました。いままで、コンピュータ授業をすると確かに積極的に授業に参加をしてはいたけれども、与えられたものに積極的になっているだけで、自分から積極的に何かをするということがありませんでした。ところが、この授業では指示をしていないのに生徒自らが考えて、約分や有理化をしていました。あらためて観察してみると筆算をしていなくても暗算でしているみたいでした。これだけでもコンピュータで授業をしたかいがあったのではないかと思います。
公開授業以外にももう一クラスの授業を私が、また、本校の同僚の先生にも2クラスの授業に利用してもらいましたが似たような状況でした。また、公開授業に参加の他校の先生にも利用していただきましたが、生徒にも好評で熱心に取り組んでいたそうです。
5.生徒の反応
本校生徒129名へのアンケート結果です。おおむね7割以上の生徒がコンピュータ授業に肯定的であるという結果がでてきています。自ら積極的に授業に参加し、体験学習をするための道具のひとつがコンピュータであるといえるのではないでしょうか。
選択肢 | @ | A | B | C | D | E |
---|---|---|---|---|---|---|
問1 | 57.4% | 24.8% | 13.2% | 3.1% | 0.0% | 1.6% |
問2 | 34.1% | 30.2% | 24.0% | 6.2% | 2.3% | 3.1% |
問3 | 38.8% | 35.7% | 15.5% | 7.8% | 2.3% | 0.0% |
問4 | 61.2% | 20.9% | 14.0% | 2.3% | 0.0% | 1.6% |
問5 | 53.5% | 24.0% | 17.1% | 1.6% | 0.0% | 3.9% |
問6 | 72.1% | 16.3% | 6.2% | 0.0% | 0.8% | 4.7% |
生徒の声
・10分位で飽きてしまった。 ・まわりがかなりうるさかった。
・画面に集中するのでよく分かる。 ・図が小さすぎた。
・占いができたからよかった。 ・ゲーム感覚でおもしろかった。
・すごく楽しめながら勉強できてよかった。
・すっごくわかりやすくて勉強になった。
・計算をしなくちゃいけなかったけど楽しくできてよかった。
・時間が決まっていたから、頭の中でかきかえができなかった。
・時間が決まっていたから、頭の回転がよくなった。
・まちがったとき、正しい答がわからないときがある。
・コンピュータを使うのはいいのだが、どう解いてどう答を出せばいいか解説してくれない。
・2人で考えられるからコンピュータ授業の方が集中できる。
・今回のコンピュータ授業はうるさすぎたと思うが、自分自身に集中できたからいいと思う。
・いろんな問題が次々出てくるし、一つの問題を2人だけで解かなきゃいけないし、その後のお楽しみもあったから、あと、何点取れるか楽しみだったから集中できた。
・わからん所がわかるようになって早く解けるようになった。
・ある程度点を取ったらあのようなゲームができるので点を取るためにしっかりおぼえられた。
・ゲームをやりながらの勉強の方がはかどると思った。
・問題をたくさんすることで理解できた気がする。
・いっぱい間違えたけどやる気になれる。
6.授業を終えて
今までいろいろなソフト(自作・市販・言語等)を利用してコンピュータ授業をしてきましたが、一番よかったのではないかと思っています。先にも書きましたが、生徒自身が考えて約分や有理化を行うようになったことが一番の収穫だと思います。さらに、その後の普通教室の授業でも約分や有理化の質問が出るようになり、生徒自身かなり意識しているようです。コンピュータ授業がきっかけになって、普段の授業にも意欲関心を持つようになってきたのではないでしょうか。時間割等の都合で利用できなかったクラスでは、約分や有理化の質問はでなかったそうです。学習ソフトの開発を考えていく上で、コンピュータ授業と普段の授業の連携をいかに取っていくかを考慮していかなければならないのではないでしょうか。
予想以上に好評だった原因を考えてみると「リアルタイム性」にあるのではないかと思っています。普通のプリントだとある程度の人数がそろってから、または、授業の最後に一括して答え合わせをしたり、宿題だと提出後2,3日しないと結果がわからない場合があります。今回は入力すると即座に正解不正解がわかります。高級ゲーム機世代の生徒たちは、自分が行ったことに対して、即座に反応がないと辛抱仕切れないのではないでしょうか。今後ますます一括処理よりも個人個人の速度に合わせたリアルタイムな個別処理の必要性が高まってくると思います。コンピュータの得意分野の一つではないでしょうか。
公開授業に参加いただいた先生方からも
・チャンスタイム時のマウスの右クリックが大変だ。
・氏名や獲得点数を記入する生徒用プリントを作成し、生徒自身に学習活動を記録させ、集めてみてはどうか。(実際ににて実践していただき、生徒の感想まで送っていただきました。)
・長い辺の場合はよいが短い辺の場合、三角形が小さくなりすぎて見にくい。辺の比なのだから拡大して表示した方がよいのではないか。
・正解でも不正解でも次の問題にいってしまうが、不正解のときは再度同じ問題にすることはできないか。
等の貴重な指導助言をいただきました。今後の授業やソフト開発・改良に役立てていきたいと思います。
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