(a+b+c)nを図で展開する

平成10年度数学部会会誌に掲載予定
水口東高等学校  間宮 龍仁


★数学Tの順列・組合せを生徒と共に学習するなかで、生徒がだした別解をもとに、私なりに考えたことがあったので少しまとめておきたい。

★数学Tにおいて、教科書には次のような例題と解説が載せられている。

例題 図のような道がある。P地点からQ地点まで遠回りしないで行く道すじは何通りあるか。

                                                       9!
(解) 例えば↑→→↑↑→→→↑という矢印で表されるので、──── を計算して126通りである。
                                                     4!5!


   また、組合せを用いた別解として、9回の移動のうち、↑となる移動をする4区画を選べば道すじが1つ決まるので、95=126通りとする方法も同時に載せられている。
 授業中には、この2つを扱う予定であったが、数え上げの方法で解いた生徒がいてびっくりした。正直なところ、高校時代にあまり数学が得意でなかった私は、自分自身はじめての体験であったので、「ふうん、本当だ。そんなふうにもできるんだねぇ。」と対応してしまったので、その生徒が自分の考え方を得意げにみんなの前で発表した。そして、第3の解法ということでほかのクラスでも紹介しておいた。

(別解)それぞれの交差点に入ってくる道順の総数を図のように書き込むと、126通りである。

 これは図のような角Gに来る道順が、Gの左の角Sおよび右の角Tからの両方向ありそれぞれがk通り、m通りあるならば、Gに来る道順はあわせて(k+m)通りあるという和の法則を用いたものであったが、どれだけ道が複雑であっても、最短経路の総数が求められるということで、生徒には結構好評であった。次の2つの例で確認しておきたい。


例1)

       k通り→       (k+m)通り
S ━━━━━━━━ G
┃            ┃
┃            ┃↑m通り
┃            ┃
  ━━━━━━━━ T




例2)


例えば、図1のような経路でRを通らないものは、図2のように考えて8通り。また、図3のような経路での最短経路は、図4のように考えて12通りと、結構簡単に求めることができる。

★次に、この内容を学習して3つのクラスで同じことを説明していくうち、先程の例題の数え上げの図を斜めにみると、パスカルの三角形が隠れていることに気がついた。その作り方から考えれば当然のことと言えるかもしれないが、こうして道順を数え上げていくことにより (a+b) の展開時における各項の係数がわかるのであれば、3次元を考えることによって、
(a+b+c)の展開が同様にできるのではないかと考えてみた。
 
 まず、(a+b+c) でn=1,2,3,…と数値を代入して実際に展開をしてみると、
(a+b+c)=a+b+c
(a+b+c)=a+b+c+2ab+2bc+2ca
(a+b+c)=a+b+c+3ab+3ac+3ab+3bc+3ac+3bc+6abc
(a+b+c)=a+b+c+4ab+4ac+4ab+4bc+4ac+4bc+6a+12abc+6a+12abc+6b+12abc
 
ここまで展開するだけでも骨のおれる作業であった。一方、立体モデルを作り、数え上げの方法で各格子までの最短経路数を書き込んでみた。すると、同一平面上にきれいに展開したときの各項の係数が並んでいることがみてとれた。このことは、次のページの図をみればあきらかである。このあと、n=5,6,… と数値を代入して展開をしていくことがいよいよ大変になってきたので、本校の栃木欣也先生に相談したところ、快く次のようなプログラムを作っていただくことができ、計算の手間を省くことができた。このプログラムは、先程の数え上げの法則をうまく利用されたもので、立体モデル同様次に載せておく。

 1:input "縦,横,高さ=",L,M,N
 2: dim PAS(L,M,N)
 3: for I=0 to L:PAS(I,0,0)=1:next I
 4: for I=0 to M:PAS(0,I,0)=1:next I
 5: for I=0 to N:PAS(0,0,I)=1:next I
 6: for I=1 to L:for J=1 to M:PAS(I,J,0)=PAS(I-1,J,0)+PAS(I,J-1,0):next J:next I
 7: for I=1 to M:for J=1 to N:PAS(0,I,J)=PAS(0,I-1,J)+PAS(0,I,J-1):next J:next I
 8: for I=1 to L:for J=1 to N:PAS(I,0,J)=PAS(I-1,0,J)+PAS(I,0,J-1):next J:next I
 9: for I=1 to L:for J=1 to M:for K=1 to N
10:  PAS(I,J,K)=PAS(I-1,J,K)+PAS(I,J-1,K)+PAS(I,J,K-1)
11: next K:next J:next I
12:*LOOP:input "n=",E:if E=0 then end else if E>L then beep:goto *LOOP
13: for K=0 to N:for J=0 to M:for I=0 to L
14:  if I+J+K=E then print I;J;K;"=";PAS(I,J,K)
15: next I:next J:next K
16:goto *LOOP

 

 こうして得られた立体の各平面における数字の並びに何か法則性はないものかと考えてみた。n=1,2,3,4 の各場合にできる平面と点の並びについて考えてみると、各三角形の一番外側にはパスカルの三角形の数字の並びがみられる。しかし、内側の数字には(a+b) の展開のときのような、単に上段の2数を加えていくと次の数が得られるというような易しい法則性は見あたらない(※前の平面を利用すれば求められる。例えば、n=3のEはn=2のA+A+Aで、n=4のKはn=3のB+E+Bで求められる。これはプログラムを組む際に利用したアルゴリズムである。※注:この括弧部分は栃木が記載)。しかし、もしも、この三角形の平面上に簡単にこれらの数字を並べることができたならば、(a+b+c)の展開公式を作ることが容易にできることになる。

 まず注目をしたことは、これらの三角形が正三角形だと考えれば、60゜回転させれば同じ数字の並びがでてくるということである。

 次に、 (a+b+c) で ax(x+y+z=n)の係数をこの平面のように並べたとき、上からp段目の左からq番目の項、すなわち an+1-pbp-qcq-1 の係数Aを考えてみると、
             n!
  A=──────────────  (1≦q≦p≦n)
     (n+1−p)!(p−q)!(q−1)!               とかける。

では、上からp段目の左からq+1番目の項の係数Bはどうなるか?と考えると

             n!                             
  B=──────────────  (1≦q≦p≦n)
     (n+1−p)!(p−q−1)!q!                 とかける。

仮に、B÷Aを計算すると、

              n!          (n+1−p)!(p−q)!(q−1)! 
B÷A=─────────────×──────────────
     (n+1−p)!(p−q−1)!q!          n!         

      (p−q)(p−q)!q!    p−q
   =──────────=────
      (p−q)!q!q         q    となって、少しだが簡単な関係式ができた。

結果としては、上からp段目の左からq番目をI(p,q) と書くことにすれば、
         p−q
(p,q+1)= ─── I(p,q) ……(*)となるということになる。
         q

ほかにもいろいろと試してみたが、おそらくこれが一番簡単な関係式ではないかと考えている。このことを用いれば、例えばn=5のときの展開公式を作ろうと思えば、はじめに6段分の三角形を用意して、一番外側の三角形の頂点に1を書き(*)を用いて一番下の段の数字を埋める。次に対称性を用いれば、外側の数字が全て埋まる。あとは残ったところについてこの作業を繰り返せば全ての項の係数を求めることができ、展開公式そのものを作ることができる。

となる。
 
★今回の自由研究の内容は、私が勝手に想像して自己満足の世界にひたってしまっているだけなのかもしれません。従って、ここまで読んでいただけただけでも幸いです。私自身は、この続きとして「では、(a+b+c+d)を展開すればどうなるのだろうか?」ということを考えています。今のところ、四面体をモデルにすれば、うまくいきそうなのですが、その先は検討中です。この原稿を読んで下さった先生方からご意見ご感想をいただければ幸いです。最後に、この原稿を書くためにプログラムを提供して下さったり、図形を作成するにあたりいろいろとお教えいただいた本校数学科の栃木欣也先生と理科の太田栄一先生に感謝します。


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